大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成11年(ワ)13234号 判決

原告

岡村久也

被告

中田義治

主文

一  原告の主位的請求を棄却する。

二  被告は、原告に対し、金二九六万六九九〇円及びこれに対する平成一〇年九月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の予備的請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告の負担とし、その七を被告の負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  主位的請求

被告は、原告に対し、金三四〇万円及びこれに対する平成一二年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  予備的請求

被告は、原告に対し、金三八六万九七七二円及びこれに対する平成一〇年九月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  訴訟の対象

(一)  主位的請求 示談契約

(二)  予備的請求 民法七〇九条(交通事故、物損)

二  争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実

(一)  交通事故の発生(争いがない。)

〈1〉 平成一〇年九月五日午後四時三五分ころ

〈2〉 京都府相楽郡山城町大字平尾小字西河原四番地先路上

〈3〉 被告は、普通乗用自動車(奈良五〇〇さ六〇九九)(以下、被告車両という。)を運転中

〈4〉 原告は、原告所有の普通乗用自動車(大阪三四ほ八三七)(以下、原告車両という。)を運転中

〈5〉 被告車両がセンターラインをオーバーし、対向車線を走行してきた三上哲磨所有の普通乗用自動車に衝突し、さらに同車に後続していた原告車両前部に衝突した。なお、原告車両は、衝突により停止した後、その後続車両である佐々木美津子所有の普通乗用自動車に追突された。

(二)  責任(争いがない。)

被告は、過失により、センターラインをオーバーし、原告車両に衝突した過失がある。したがって、民法七〇九条に基づき、損害賠償義務を負う。

(三)  傷害(甲二)

原告は、本件事故により、加療約五日を要する頸椎捻挫の傷害を負った。

(四)  原告車両の損害(弁論の全趣旨)

原告車両は、前部、後部に損傷を受けた。

三  原告の主張

(一)  主位的請求(示談契約の成立)

被告は、原告に対し、平成一〇年九月一四日、被告の付保会社が保険金として支払う二一〇万円のほかに、被告自身が解決金として三〇万円を支払う旨の示談をしたいと申し入れた。これに対し、原告は、原告車両が本件事故の二年四か月前に新車で購入した車両であるから、新車購入価格と支払われる保険金の差額の半分を被告が負担する旨の示談をしたいと回答した。

さらに、被告は、原告に対し、平成一〇年九月二八日、被告の付保会社が保険金として支払う二四〇万円のほかに、被告自身が解決金として一〇〇万円を支払う旨の示談をしたいと申し入れた。これに対し、原告は、解決金の支払額については異存がなかったが、保険金として支払われる二四〇万円については、原告が把握していた修理見積もり約二六八万円との間に隔たりがあったため、保険金(修理費相当額)については再検討を求めたかった。そこで、被告に対し、被告自身が解決金として一〇〇万円を、ほかに付保会社が保険金(修理費相当額)を支払うこととし、保険金(修理費相当額)については付保会社に対し説明を求める旨の示談をしたいと回答した。被告は、これを承諾した。

したがって、原告と被告は、平成一〇年九月二八日、被告自身が解決金として一〇〇万円を、付保会社が保険金(修理費相当額)を支払う旨の合意が成立した。そして、保険金については、平成一〇年一〇月二一日ころ、二四〇万円と確定した。

よって、原告は、被告に対し、示談契約に基づき、三四〇万円の支払を求める。

(二)  予備的請求(不法行為)

原告が本件事故によって被った損害は次のとおりである。

〈1〉 治療費 一万三二四〇円

〈2〉 修理費 二六〇万二七八二円

原告車両の前部と後部の修理費二六六万八八四〇円から、後続の佐々木車両から追突されて受けた損傷部分の修理費一九万円を控除した二四七万八八四〇円に消費税相当額を加えた額である。

〈3〉 レッカー代 三万〇三五〇円

〈4〉 評価損 三七万三四〇〇円

〈5〉 慰謝料 五〇万〇〇〇〇円

〈6〉 弁護士費用 三五万〇〇〇〇円

よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づき、三八六万九七七二円の支払を求める。

四  被告の主張

(一)  主位的請求(示談契約の成立)について

示談契約は成立していない。

原告は、原告車両の損傷が大きく、新車の購入を希望したことから、被告に対し、保険会社が支払う保険金(修理費相当額)と新車購入費用の差額約二〇〇万円の半分一〇〇万円を負担するように求めた。そこで、被告は、原告に対し、平成一〇年九月三〇日ころ、付保会社が支払う保険金二四〇万円(修理費二三〇万円と代車費用一〇万円)に三〇万円の自己負担金を上乗せして支払う旨を申し入れたが、原告はこれに納得しなかった。

その後、平成一〇年九月三〇日ころ、原告車両の後部の損傷について、佐々木が警察に対し事故の再調査を求めた。被告は、本件事故の解決が長期化することを懸念し、原告に対し、そのころ、付保会社が支払う保険金二四〇万円に自己負担金一〇〇万円を上乗せして解決したい旨をあらためて申し入れた。しかし、原告は、付保会社の査定額を上げるためか、付保会社がした査定の説明を求めた。被告は、原告に対し、付保会社に査定の内容を確認することは差し支えないが、総額三四〇万円で示談したい旨を繰り返し確認した。

その後、原告が被告の付保会社に対して査定の再検討を求めたため、交渉が行き詰まり、被告とその付保会社は、原告に対し、最終的に、総額三四〇万円に上乗せを求めるのであれば、提示は撤回し、弁護士対応とする旨を伝えたところ、原告はそれでよい旨の回答をした。

したがって、原告は、被告の早期解決のための総額三四〇万円での示談の申し入れに応じなかったのであるから、示談契約は成立していない。

(二)  予備的請求(不法行為)について

治療費は知らない。

修理費は、二三〇万円である。

レッカー代は認める。

評価損は否認する。

慰謝料は否認する。

第三主位的請求(示談契約の成立)に対する判断

一  証拠(甲三ないし五、九、乙一ないし三、原告の供述)によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  原告が示談契約が成立したと主張する平成一〇年九月二八日ころまでの事実経過の詳細については争いがあるが、おおよそ次のような事情が認められる。

〈1〉 原告は、当初、本件事故により受けた原告車両の損傷が大きかったので、修理が可能だとは思っていなかった。ところが、その後、被告から、原告車両を修理することになり、その費用は二三〇万円であるとの連絡を受けた。修理をすることに驚くとともに、すでに原告車両を購入したディーラーから聞いていた修理見積もり約二八〇万円と隔たりがあることに疑問を感じた。他方、被告に対し、原告車両は本件事故の二年四か月前に四六〇万円で新車を購入したものだから、新車を購入したいし、そのため、購入価格四六〇万円と保険金二六〇万円(被告の付保会社が支払う二四〇万円と佐々木の付保会社が支払う二〇万円の合計)の差額二〇〇万円の半分一〇〇万円を負担してほしいと伝えた。

〈2〉 被告は、当初、付保会社から、保険金以外には自己負担できない旨を原告に伝えるようにアドバイスされたが、自分の一方的な過失による事故のため、保険金以外の自己負担はやむを得ないと考えるようになった。そして、原告が被告に対し新車購入に必要な費用と保険金(修理費相当額)との差額の半分一〇〇万円を自己負担するように求めてきたので、原告に対し、三〇万円を自己負担することを伝えたが、原告は、これに納得しなかった。そのころ、被告の後続車両の運転者である佐々木が警察に事故の再調査を申し入れたため、事故処理の長期化を懸念し、早期解決のため、原告に対し、付保会社が支払う保険金二四〇万円のほか、自己負担金として一〇〇万円を支払うことを決めた。

(二)  平成一〇年九月二八日ころには、原告と被告の間には、およそ次のようなやりとりがあった。

〈1〉 被告は、原告に対し、早期解決のため、付保会社が支払う保険金二四〇万円(修理費相当額二三〇万円と代車料一〇万円の合計)のほかに、自己負担金として一〇〇万円を支払う旨を申し入れた。

〈2〉 これに対し、原告は、被告が自己負担金として一〇〇万円を支払うことについては納得したが、付保会社が支払う保険金二四〇万円については、ディーラーの見積もり約二八〇万円と相違があることから、保険会社に査定の内容を確認したい旨を回答した。

〈3〉 被告は、原告が付保会社に対し保険金二四〇万円(修理費は二三〇万円)の査定の根拠を確認することに協力する旨を約束した。

〈4〉 これらの交渉については、合意の内容を書面に作成していないし、自己負担金について、支払日を決めたりもしなかった。

(三)  平成一〇年九月二八日以降の経過は、およそ次のとおり認められる。

〈1〉 被告の付保会社は、原告からの要請があったため、原告に対し、ディーラーの見積もりに対する意見などを示して、保険金二四〇万円(修理費は二三〇万円)の査定の根拠を説明したが、原告は、これに納得しなかった。

そこで、被告と付保会社は、原告に対し、自己負担金一〇〇万円と保険金二四〇万円の総額三四〇万円で示談できなければ、提示を撤回するとともに、弁護士対応にすると伝えた。原告は、この時点で、被告らからの提示である総額三四〇万円での示談を承諾しなかった。

〈2〉 この時点でも、示談金として総額三四〇万円を支払う旨の書面などは作成されていない。

二  これらの事実によれば、原告が主張する合意を裏付ける書面などの客観的な証拠がない。

また、事実経過を検討しても、被告は、原告に対し、付保会社が支払う保険金二四〇万円のほかに自己負担金として一〇〇万円を支払う旨を申し入れているが、通常、付保会社が支払う保険金のほかに加害者が多額の自己負担をすることはなく、本件でも、被告は、早期解決のために原告の申し入れを受け入れ、自己負担金一〇〇万円を支払うことを決めたと認められる。さらに、被告の付保会社は被告が生じさせた損害についての保険金(修理費相当額)を支払うのであるから、被告は、自己負担金を支払うつもりでいたとしても、付保会社が支払う保険金額の解決とは別に示談をするつもりであったとは到底考えられない。つまり、被告は、早期解決のため、付保会社が支払う保険金二四〇万円と自己負担金一〇〇万円で示談をする旨を申し入れたと認めることが相当である。

したがって、付保会社が支払う保険金のほかに被告が自己負担金一〇〇万円を支払う旨の示談をしたとの原告の主張は認められない。

三  また、念のために付け加えると、前記認定のとおり、被告は、平成一〇年九月二八日ころ、早期解決ができるのであれば、付保会社が支払う保険金二四〇万円のほかに自己負担金一〇〇万円を支払う旨を申し入れたことは明らかである。そして、そのころ、原告は、被告のこの申し入れを承諾しなかった。さらに、その後、被告と付保会社は、原告に対し、最終的に、総額三四〇万円で示談をするかどうかを確認したが、原告はこれに納得しなかった。

そうすると、原告が被告の申し入れを承諾せず、早期解決が困難になったのであるから、被告の申し入れが撤回されたことは明らかである。

したがって、原告と被告の間には何らの合意もされなかったことになるから、原告は、現時点で、被告に対し、示談契約に基づき、自己負担金一〇〇万円と保険金二四〇万円の支払いを求めることはできない。

第四予備的請求(不法行為)に対する判断

一  治療費 一万三二四〇円

治療費は、一万三二四〇円と認められる。(甲六)

二  修理費 二三〇万〇〇〇〇円

原告車両の前部の修理費は、二三〇万円と認めることが相当である。(乙二)

これに対し、原告は、ディーラーの見積書二六六万八八四〇円(甲三)から、後続の佐々木車両から追突されて受けた損傷部分の修理費一九万円を控除した二四七万八八四〇円に消費税相当額をを加えた額が相当である旨の主張をするが、前記認定の修理費よりディーラーの修理見積もりが相当であることを裏付ける証拠がない。

三  レッカー代 三万〇三五〇円

レッカー代は、三万〇三五〇円が相当である。(甲七)

四  評価損 三七万三四〇〇円

原告車両は、平成八年五月に初度登録され、本件事故時まで二年四月経過し、一万五一四八kmを走行していた。事故当時の時価額は約二六三万円であった。修理費は、前記のとおり約二三〇万円であるが、修理をしないで、平成一一年五月には車検が切れた。日本自動車査定協会は、事故減価が三七万三四〇〇円であると査定した。(甲八、乙一、二)

これらの事実によれば、実際に修理や下取りをしていないとしても、損傷の状況や修理見積もりの内容によれば、本件事故による減価が生じていると考えることが相当であり、その額は三七万三四〇〇円を下らないと認める。

五  慰謝料

前記認定によれば、慰謝料を認めるべき事情は見当たらない。

六  弁護士費用

弁護士費用は、二五万円が相当である。

七  結論

したがって、原告が被った損害は、二九六万六九九〇円と認められる。

(裁判官 齋藤清文)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例